一人で入試に向かった子

ある中学で入試応援をしていたときのことです。

まあ、どの塾も一列に並んで、子どもたちが順々に握手をしていく、あの光景です。だいたいは子どもたちの後ろにお母さんがいて、
「ありがとうございます。」
なんて言われながら、子どもたちはまあ、知らない先生とも握手をしなくてはならず、多少なりとも面はゆい顔をしつつも、会場に向かっていくわけですが。

その子は、われわれのすがたを見つけて、そのまま列に並んできました。

そして、握手。

その時、私は気が付いた。

後ろに保護者がいない。

「うん? お母さんは?」

「え、僕は一人で来ました。」

「家から?」

「はい、だって一本だから。」

「そうか、偉かったね。じゃあ、がんばって」

と本人はいつも通りの様子で会場に向かっていきました。

お父さん、お母さんはなかなか大変だっただろうと思うのです。私が思うには、絶対本人が言い出したに違いない。

「一人で行く。」

これを決断できるお父さん、お母さんはなかなかいないでしょう。

「何かあったら」とつい思ってしまう。

普通は何もないのです。それにもう12歳。そりゃあ、塾にだって電車で行けるんだし、もちろん入試会場まで一人で行くことぐらいできるだろう。

でも、大事な入試の日。いくら本人が一人で行くと言っても、後ろからついてきたりするものではないか?と思って、後ろを見ていましたが、やはり本人は本当に一人で来たようでした。

もう、試験会場に入れば本人の勝負。ということを最終的にご両親は覚悟した、ということなのでしょう。

彼は見事に合格していきました。

(gooに掲載されたものを転載しております。)

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